自作 WE91タイプパワーアンプ 

 モノラル2台で部屋の作りつけの棚に収まったWE91タイプアンプ。 一台25kgあります。シャーシ本体のサイズは220mm×530mm高さ50mm。
左右対称型のデザイン。これは信号系が少しでも電源系から離れるようにするためです。コネクタ類は他の機器との接続を容易にするため、全面に配置しています。
手前の自作6350プッシュプルステレオコントロールアンプから信号を送っておりますのでボリュームは省略しています。

 前作サンオーディオSV300BE キット組立アンプで十分に満足しておりましたが、去年(2002年)の夏のある日、日本橋の電子部品店でタムラトランスが陳列されているのを見かけました。サンオーディオのアンプに装着されている同じメーカーの物です。驚いたことにサイズが大きい。エレキットのTU873からサンオーディオに乗り換えたときその出力トランスの大きさと全体の重さににびっくりしし、出てくるシンバルの音に痛く感動したものですが, それよりもかなり大きい迫力のある出力トランスがウインドウに陳列されていたのでした。真空管アンプで大きなトランスが歓迎されるのは出力が増大したときに低域特性の悪化が少なく、音にゆとりが出るためですが、こんな大きな出力トランスを使用すればさぞかし良い音だろうなとショーウインドを見入っていたのです。ウインドウの淵を見ると値段が表示されていましたが、その時点で大幅な値上げ(あとで調べたところ2002年の4月1日)の直後らしく、”次回の入荷分から価格改定となります”とあり、値段を見るとその時点では一つ2万円でしたが、改訂後の価格が46500(上代)になるということでした。旧価格でもステレオで4万円かかりますが、一つが4万6千500円となるともう手が出そうにありません。これを見逃すのもなにかもったいなく、製作に自信があったわけではないのですがお店に予約注文を入れ、製作の検討を始めました。

1.真空管 トランス類と電源回路
 すでにサンオーディオの300Bアンプを持っていたので出力管は買わなくても済みます。ただ、同じものの二番煎じだとつまらないので色々と雑誌やマニア向けの本やお店の人の話などを聞いていくうちに、プッシュプルなどの複雑な回路は自信がないけれどシングルなら何とかなるのではないかと、またトランス結合だと回路が簡単で済むので自分にも出来るのではないかと構想を練っていったのです。タムラのトランスは出力トランスのみではなく電源トランスやチョークも値上げがされたので旧価格で購入できるうちに買っておこうと欲張ってモノラル2台にすることにしました。

 初段管にWE310A 出力管はWE300B 88年式。奥に見えるのが今回の製作のきっかけとなったタムラF2007出力トランス。
ケーブル接続を容易にするため全面にコネクター類を配置しています。WE300Bは直流点火、WE310Aは交流点火方式を採用。

 整流管WE422Aと電源トランスタムラPC3004 初段管WE310Aはヒーターが温まるのに時間がかかるが、これは傍熱タイプの整流管のためB電圧がゆっくり立ち上がるので電源投入時の初段管の負担が軽くなるメリットがあります。。
スイッチは切り忘れ防止をかねて2個並列して使用しています。

 WEBなどで調べると300Bによくマッチする初段管として同じウエスタンエレクトリックの310Aがよく使われているようです。このWEの真空管も数が少なくなってきているようなのでインターネットで調べ、2本通販で求めました。今よりは少し安く買えたようです。
 トランス類はお店の方に無理をいって取り置いてもらい、毎月トランス1〜2個という風に少しづつ数ヶ月にわたって部品をそろえていきました。
 モノラル2台によるステレオ再生を目指しているので、B電源回路にはこだわって全てオイルコンで平滑回路を形成することにしました。オイルコンは耐電圧は高いものの容量は少ないので何個も並列して容量を稼いでいます。それでもリップル分が取りきれないことがわかり、2段チョークとしています。

 右端が電源トランス、タムラPC3004 一段目は8μ1.6KVのオイルコン(マルコン電子製)のコンデンサーインプット方式を採用。
次位にチョークコイル、タムラA4004を介して10μ1KVのオイルコン(エルデ製)を2個、さらに奥のA4004を経由して10μ1KVを3個並列して形成しています。
これで合計58μFになりますので、まずまずの容量です。能率の高い古いスピーカーでもハムは少ないのでまあうまくいっているのでしょう。

2.部品配置とデザインの検討

 トランスやコンデンサーを並べて配置を検討しているところ。信号系と電源系を出来るだけ分離するようなデザインを基本に置きました。この時の台は発泡スチロールを使用。この時点ではまだ終段トランスドライブを検討中。概ねの回路が決定(WE91型を踏襲)したところでサイズなどを決めました。

3.シャーシの製作
 これだけ大量のコンデンサーを搭載するためには既製品でシャーシを探すのは殆ど無理でしょう。
かなり大きくなってしまいますので、部屋の作りつけの棚にちょうど収まるに収まるよう、金属材料店にシャーシ用真鍮版を発注しました。
寸法をファックスして切り出してもらい、穴あけ加工とはんだ付けによる組立は全部自分で行いました。

 ほぼ板金加工とはんだ付けの終わったシャーシー(左チャンネル用) 足は直径60ミリ厚さ15ミリの真鍮ブロック製。このインシュレーターも自分で穴あけとタップたてを施しました。
ここまでに2台でほぼ1ヶ月かかっています。ちなみに上に乗っているものはタバコの箱です。

 天板には加工のしやすさを考えt2mmを使用。
側板とインシュレーターの金具及び箱を形成するためのアングル材は耐久性とジャックの抜き差し時の感触を考えt3mmを使用しています。

4.仮組み

シャーシをサンドペーパーなどで大まかに磨き上げ、部品の取り付け寸法をマッチさせる工程のあと撮影。(右チャンネル用)各パーツはシャーシが厚みのある真鍮板を使用しているので取り付け穴をあけて直接タップを立ててねじ止めしています。


 再び分解し 内部CR部品配置と配線を検討中の図。
5.塗装 完成 試聴
 仮組み後バラしたシャーシをスプレーガンで青15号で塗装しました。これは過去に旧国鉄の一般型客車やブルートレインに使用された塗色です。ブルートレイン風に真鍮の帯板を正確にはんだ付けし、その部分をマスキングし塗装、後にコンパウンドで磨き出し、つやありクリヤーラッカーで上塗りを施しました。

RCAジャックはスーパートロン製、スピーカー端子はメーカーはわかりませんが大型のバナナプラグ対応品。アース端子はトリテック製。

 大型のシャーシを採用したためかノイズも少なく、またモノラル構成なのでステレオ再生時のチャンネルセパレーションはさすがに良く、楽器の位置が明瞭になった印象が強いです。1台のスピーカーのみ通電し、耳をそばだててみると、そこから出てくる音がステレオアンプよりもはっきりくっきりとした印象はさすがです。 抵抗に誤差の少ないリケノームRMGやデールのメタルクラッドなどを使用しましたためでしょうか左右のバランスもよく、音がよくそろっています。また大きな出力トランスを使っているためシングルアンプにも関わらず低域の量感が豊かです。さらに小音量時でも楽器の分離が良く、解像度もかなりのもののようです。電源トランスの発熱は非常に少なく長時間の使用でも不安が少ないでしょう。
 オリジナルの回路では負帰還がかかっていますが(元祖NFBなのだそうです)このアンプでは、使用するスピーカーが古い帯域の狭いものであることもあり、NFBはかけておりません。まあ今のところ自分の聴感上は(耳には自信が無いのですが)満足しています。オーディオ店のご協力を得てオシロスコープにて波形観測も行いましたが通常の音量ではきれいな正弦波が出力され、B電圧は真空管のライフを考えやや押さえておりますが、クリップポイントは8W付近まで伸びています。

6内部配線
 シャーシが大きい上単純な回路のため中はがらんどうです。真ん中の太い線はスピーカーケーブルを使用した300B直流点火用配線。緑色の丸いものは余り見かけないものでしょうが古い時代の真空管使用のカラーテレビに使用されていたチョークコイルです。35V10000μ2個とで簡単なπフィルターを形成しております。

 
7組立調整後の各種対策
 真空管長寿命対策 
 B電源は360V巻線から整流ですが、整流管WE422Aは傍熱管のため内部抵抗が低く効率が高いためそのままだと460Vが出力管WE300Bのプレートに掛かります。余裕を持たせるため200Ω30Wのホーロー抵抗を0V巻線とアースとの間に入れました。300Bカソードの抵抗も製作当初の880Ωから1kΩに変更し、プレート電流を落としています。
 初段管WE310Aのヒーター電源は4Vと6Vのタップからシリーズ接続して得ていますが、そのままだと11.3Vも掛かっています。1Ωと3.3Ωの5Wセメント抵抗をシリーズ接続して9.8Vに落としています。また初段管のプレート電圧は230Vと余裕を持たせております。
 音質対策
 MJ誌(誠文堂新光社刊)2003年10月号のサンオーディオSV300BEが紹介されています。その記事にデカップリングコンデンサーにスプラグのオイルコンをパラ接続して音質の向上を図っているとありました。早速メーカーに問い合わせたところ音がまろやかになるとのこと。たまたま手持ちにスプラグ製オイルコンデンサービタミンQ 0.47μ630Vがありましたのでデカップリングコンデンサーに同じようにパラ接続しました。最初の印象は不思議なことに広いレンジにわたって音の情報量が増したようで、堅い音も角が取れた感に受け取れましたが、聞き込んでゆくうちになんとなく霞がかったような音に変化していきました。
 そこで、カップリングコンデンサ−をビタミンQからオルリキャップフィルムコンデンサ0.22μF600Vに変更し、デカップリングにパラ接続していたビタミンQを取り去りました。
このアンプは全段無帰還ですのでカップリングがビンテージ物のオイルコンだと帯域が狭すぎるように感ぜられます。カップリングを最新式フィルムコンデンサーに変更したことでバランスの取れた私好みの音になりました。オーケストラの演奏時のふわっと舞い上がるような音の立ち上がりが気持ち良く、ジャズでもサックスの音が立ちすぎてややうるさい感じだったのが滑らかになったようです。またアイドリング時のハムも少なくなりました。まあカップリングコンデンサ−はいわば嗜好品的要素があるパーツなのでこれからちょくちょく取り替えて楽しむことになるでしょう。棚から取り出し2台ひっくり返すのは大変でしょうが。
 初段管WE310Aのヒーターは交流点火ですので配線にフェライトコアを取り付けました。ハムは少し減ったことがわかります。

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